中隊長としての戦場体験と教訓④

支那事変間中隊長として百数十回の戦闘を体験、そこから得た「戦場心理」「戦場における指揮統率の秘訣」を学ぶ最適な書
            高杉善治(陸士37期)支那駐屯軍中隊長、歩兵22連隊大隊長等
 
 戦闘に経験のない幹部の現地教育
 私は内地から新たに補充されて来た幹部に対しては、最初から戦闘指揮をとらせず、初めて戦闘に参加させるときには、中隊長の手許に置いて、戦闘を見学させながら教育することにしていた。この戦闘は、なるべく軽い戦闘を選び、充分に勝算のある討伐戦のようなものがよい。一例をあげると、昭和十二年の秋に、私が北支の通州(通州事変のあった地)の守備に当たっていた頃、殆んど毎日のように討伐戦があった。そこへ士官学校を卒業したばかりの若い元気なY見習士官が着任して来た。
 
 一応口頭で初陣の心得を教えて置き、翌日もちょうど手頃な討伐があったので、見習士官を指揮班付として中隊長の手許に置いて出動した。夜中に出発して夜明けに某部落の前方四〇〇米位に到達したとき不意に敵の射撃を受けた。私は一時部隊に停止を命じて煙草に火をつけ、一ぷくしながら墓地のかげに入り、敵情、地形を観察して攻撃方針を定め、見習士官を呼んで問題を与えた。

   問  題
 この時における中隊長の決心
Y見習士官は顔色やや青ざめ、興奮した口調で。
   決  心
 中隊は一部をって正面から、主力をもって右方から敵の左側背を攻撃します。

と答えた。それから決心に伴う部署をきいて大体同意を与えた。私は予備隊の軽機関銃二銃をもって正面から牽制射撃をさせ、中隊主力は右側の高梁畑の中を遮蔽しながら前進し、敵の左側背に出て約二〇〇米の距離から不意に射撃を開始した。すると敵は狼狽してどんどん後退を始めた。そこでY見習士官に新任務を与え、「貴官は予備隊の残余を指揮し、敵の退路に迫りこれを射撃せよ」と命じた。但し余り深追いをしないこと、突撃まではしなくてもよいから射撃で敵をいためつければよい、という注意をつけ加えて置いた。

 Y見習士官は生れて初めての戦闘であり、初めの中はかなり興奮と緊張の様子が見えたが、中隊の勝ち戦を見て沈着と安心観をとりもどし、「中隊長殿!もういいでしょう、早く第一線に出して下さい」といきり立っていた。私共は、これ迄たびたびの戦闘で慣れているが、彼は初陣である。いくら軽い戦闘であっても、あなどってはならない。全力をつくして真剣にやらねばならぬことを諭し、持っていた恩賜の煙草一本をとり出して彼に与え、「しっかりやるのだぞ!」といって出発させた。すると彼は勇猛果敢、弦をはなれた矢のように、部落の右から背後を迂回して敵の退路に迫り、退却しつつある敵に猛射をあびせ、大きな損害を与え胸のすくような戦闘をし勝ち戦さの味を満喫することができた。

 戦闘も一段落したので、中隊は部落の西北端で前進を停止し隊伍を整理した。当方死傷者なし。しかし見習士官の部隊だけがまだ帰って来ない。心配になったので曹長を捜しにやってようやくつれ戻し、無事であったのでほっとした。彼は初陣の勝ち戦さにすっかり有頂天になって、中隊長の注意も忘れて敵を深追いしていたのであった。お目王を頂戴して引き下がった。

 補充兵の現地教育は、数も多いしこんなわけには行かないが、出発前には充分に戦闘の教訓を教え、事前に現地で古年兵のやりかたを見せつつ訓練して実戦的に焼を入れ直して置くようにした。内地での平素の訓練では、どうしても、敵の弾が来るという観念が充分でなく、あるいは極度に弾を恐れるようになったり、あるいはぼんやりしていて無益の損害を受けたりすることが多い。平素の訓練をもっと実戦的にすることが必要である。
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