韓国のかたち 【李相哲氏講演詳報】

【李相哲氏講演詳報(1)】2017.8.30
北朝鮮ミサイル“標的”は韓国 権力闘争…金政権「3つの本質」とは

 日本上空を通過するミサイルの発射など、度し難い挑発を北朝鮮はなぜ続けるのか-。アジア近代史などが専門の李相哲・龍谷大学教授は、北朝鮮の本質は「3つの要素」に分類できると指摘する。中国という社会主義国で生まれ育ったからこそ深く理解できる金ファミリー政権の「かたち」を8月23日に大阪市内で行われた講演会(主催・ウェーブ産経)から読み解く。(発言はすべて23日時点)



■北朝鮮に核兵器を放棄させる、国際的圧力…カギ握るのは結局、金正恩委員長

 8月21日から韓国では米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」を実施しています。兵器を実際に動かしての演習ではなくて、戦争が起こった場合のさまざまな場面、約35パターンを想定して、対応をシミュレーションする訓練です。

 31日までやるのですが、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、この10日間に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が何もしなければ、対話局面に入るのではないかと述べていた。

 つまり金委員長が今までいろんなことをやってきたが、それは不問にして10日間だけ静かにしてくれたらわれわれは話し合う用意があると言ったのです。

 これは非常に問題です。今まで米国や国際社会が金委員長に求めてきたのは、核兵器を放棄しなさいということです。少なくともその意志があれば話し合いには応じると言っていた。

 それがなかなか上手くいかないので、ならば核兵器とミサイル開発を凍結すれば話し合っていいのではないかと。しかし、なお金委員長は聞く耳をもたないので、ミサイルや核実験などの挑発をしなければ話し合ってもいいとなった。

 そして今回の文氏の発言です。「10日間何もしなかったら話し合う」と。ずるずるとトーンダウンしていて、金委員長が思う通りに展開しています。米国のティラーソン国務長官も最近、「さらなる挑発をしなければ話し合う用意がある」とハードルを低くしています。

 残念ながら、この局面をコントロールするというか、キーを握っているのは金委員長なのですね。

金委員長は1週間ほど前に、韓国の最も西の延坪(ヨンピョン)島から1キロしか離れていない場所で軍の部隊を視察し、その映像が流されている。つまり米国がここまで圧力をかけても、金委員長は全く恐れていない、という大胆さをアピールした。

 こうした金委員長の行動パターン、また北朝鮮が一体何を考えているのかということを多くの方たちが疑問に思っていると思う。そこで、金正恩政権とはどのような政権かを中心にお話をしようと思います。

 この政権の本質は3つあると僕は想定しています。その3つの基準で、金委員長の行為を見ています。

 まず北朝鮮という国は「力」しか怖がらないという国です。これは社会主義国の哲学でもあり、中国もそうです。毛沢東はかつて「権力は銃口から生まれる」と言いましたが、(北朝鮮の)金正日(キム・ジョンイル)総書記も全く同じことを言っている。力から政権が生まれるし、力がなければ政権は維持できないと。

 北朝鮮の場合は、国家目標として70年間、軍事力増強に邁進(まいしん)し、力を蓄えています。経済建設はないがしろにして首都の平壌(ピョンヤン)をショーウインドーと見なし、ここには大きな建物などがあるが、国民は非常に惨めな生活をしている。経済は全て軍事力に注いでいる。

 金正日総書記の著作には「私の力の源泉は軍事力にある」とあります。彼は長らく「先軍政治」、つまり軍がすべてに優先するという政治をやってきた。それは彼の父の金日成(キム・イルソン)国家主席のころからです。

 金日成主席は、朝鮮戦争で1950年6月25日に韓国を一気に制覇しようとして韓国に攻め込み、わずか3日で韓国の首都ソウルを占領するのですが、ここからが問題でした。

最近、旧ソビエト連邦(現ロシア)の3大資料館のひとつ、社会政治史資料保管所から見つかった資料から、なぜ金日成が一気に韓国南部の都市、釜山(プサン)まで攻め込まなかったかが分かりました。一言で言うと、当時の北朝鮮にはそこまでの力がなかった。

 当時、北朝鮮が頼りにしたのはソ連の武器であったのに、ソ連の最高指導者のスターリンは武器を約束通りに送らなかった。これに関して、金日成は後に直筆の文書を残しています。その3日間が自分の人生で痛恨のミスだったと。一気に釜山まで攻め込み韓国全土を占領していたら、米国は以後、朝鮮半島に介入できなかったのに、と。

 さらに、こうも記しています。ソ連はなんでもわれわれに対価を求めて支援をしてきた。日本が撤退したあとソ連が入ってきて発電所や製鉄所の設備を全て撤去し、設計図面まで奪っていった。鉄道のレールまで奪っていこうとしているのを私が阻止した、というのです。

 そこから金日成は悟ったのでしょう。国家の方針を国防建設に全て注ぎ込むことを決めます。

■「社会主義の優等生」正当化…韓国ソウル五輪に対抗し“借金”

 北朝鮮の歴史を概観してみると、内部での権力闘争は国防・軍備を優先するか、国民生活を優先するかで起こっている。

 金日成は1912年生まれなので1972年には還暦を迎えました。韓国、朝鮮の人たちにとって60歳の還暦はとても大事な節目の年なのです。彼は常に周辺に「72年の還暦祝いはソウルでやる」と言っていた。

 当時、米国はベトナム戦争で苦戦し、ニクソン大統領はアジアから軍備を縮小するとの方針を打ち出していた時期です。朝鮮戦争後金日成は中国の周恩来首相と何度も話し合い、もう一度ソウルに攻め込みたいと主張していた。

 北朝鮮は国民経済の30%以上をつぎ込んで武器をつくり、ソ連からも武器を買ったが、1970年代後半から80年代にかけて経済状態が韓国と逆転し、このままでは韓国に負けるのではないかという状況になった。

 決定的なきっかけは1988年のソウル五輪です。それまで北朝鮮は社会主義経済の優等生とされ、韓国と競う国とみられていた。そこで、豊かさで韓国に勝っていることをアピールするため、金日成は1989年に「世界学生青年祭典」というものを首都の平壌で開催します。金日成は、とにかくソウル五輪より大きくしろということで、15万人を収容できるスタジアムを造ったり、凱旋(がいせん)門を造ったり、世界190以上の国・地域から1万2千人以上を無料で招待した。推定で約50億ドルを使ったといわれています。

 北朝鮮経済は当時、国民総生産(GNP)が300億ドルもない国です。なのに50億ドルもの現金を祭典につぎ込んだため、一気に経済が悪化してしまった。これ以降、経済発展は完璧に韓国に負けます。

 このため、韓国に勝ってきた武器システム-潜水艦や戦車の数、戦闘機の質などでも、勝ち続けるのは到底無理になった。

 そこで彼らが注力したのが非対称武器、つまり生物化学兵器です。これは貧者の武器といわれる、とても恐ろしい兵器です。そして核兵器とミサイルの開発に邁進する。

 今日の北朝鮮の問題の根源は、韓国に優位に立とうと突っ走ってきた結果です。北朝鮮のミサイル開発は米軍に対抗するためのものだというような一部の評論家の声がありますが、これは全く間違っています。 1にも2にも3にも、ミサイルの目標は韓国です。

 ではなぜ長射程の大陸間弾道ミサイルを開発するかというと、彼ら北朝鮮は、自分たちのやり方で韓国を軍事的に制覇できるのに、米国が邪魔をするとみている。だから米国をこの朝鮮半島問題から切り離すために弾道ミサイルを開発、実験しているのです。

 関与すればミサイルを打ち込まれる可能性があるぞと。米国は駐留軍を韓国から撤収することもありえる岐路に立っている。

 そういう意味で彼らは核開発をしてきたが、政権の力の源泉もまた核兵器にあるともいえる。だから金委員長が命綱である核兵器を放棄することは全くない。


 【プロフィル】李相哲(り・そうてつ) 中国黒竜江省生まれ。中国で新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院博士課程修了(新聞学博士)。主な著書に産経新聞に「秘録金正日」として連載した「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)、「朴槿恵の挑戦」(中央公論新社)。


【李相哲氏講演詳報(2)】2017.8.31
人命軽視の北朝鮮…「国民3年分の食費」で金日成の遺体保存施設を改修、その裏で200万人餓死

 日本上空を通過するミサイルの発射など、度し難い挑発を北朝鮮はなぜ続けるのか-。李相哲・龍谷大学教授が読み解く北朝鮮の本質「3つの要素」とは。



 北朝鮮をみるときに看過できない2番目の特質は、人命を大切にしないということです。これは社会主義国に共通することでもあります。

 北朝鮮の歴史を振り返ればよくわかるのですが、1994年に(国家主席の)金日成(キム・イルソン)が亡くなり、その1年後くらいから北朝鮮は洪水や災害に見舞われ、苦難の行軍といわれる大変な時期を迎えます。この96年から99年までの間に約200万人の国民が飢え死にした。北朝鮮の人口のほぼ10%です。

 この数字に関してはいろいろな議論があり、97年に北朝鮮から韓国に亡命した(朝鮮労働党書記の)黄長●(=火へんに華)(ファン・ジャンヨプ)は、当時北朝鮮の権力構造のなかで序列21番目の党の幹部ですが、彼の見積もった数字が200万人です。

 また、彼と一緒に亡命した秘書の金徳弘(キム・ドッコン)という人。私は直接会って話を聞いたこともあります。彼は亡命するまでに北朝鮮の党中央資料室という、党の秘密資料を扱う部署の室長をやっていました。そこで見た資料ではだいたい250万人が飢え死にしたと証言している。

 国民が数百万人単位で亡くなっている、そういうときに北朝鮮政権は何をしたか。(総書記の)金正日(キム・ジョンイル)は父親の遺体を安置する太陽宮殿という宮殿を改修するんです。そこに推定9億6千万ドルをつぎ込んだ。9億ドルという金額は、北朝鮮の2400万人の国民が3年間、延命できるだけのトウモロコシなどの食料を買える額です。北朝鮮の国民は国にお金がなくて死んだわけではありません。

北朝鮮という国は人の命を大事にしない。これは彼らの論理からすると強みでもある。例えばわれわれはいま北朝鮮を包囲し、制裁を科して追い込もうとしていますが、困るのは一般の人たち。周辺の人たちから飢え死にするわけです。北朝鮮の中枢部にいる人たちに影響が来るのはじわじわとであって時間がかかる。ですからいま制裁があまり効かないのはそういった面もある。

■国民を51の身分に割り統治、強制収容所…

 普通の国では、国際的な制裁が科されて餓死者が出れば、その政権は倒れる。でも北朝鮮では必ずしもそうではない。北朝鮮に国家安全省という、日本でいえば警察組織があるんですが、数年前にあるルートから、その国家安全省が出している秘密資料を入手して読んだことがあります。

 資料によれば、北朝鮮は国民を51の「出身成分」に分類します。これをさらに3階層にわける。まず、政権を支える核心階層というものがあります。これは軍属や抗日闘争で貢献した抗日パルチザン家族で、こうした人々はほとんど首都の平壌に住んでいます。

 それから動揺階層が地方に住んでいる。敵対階層というものもある。この敵対階層はだいたい隔離地域、韓国との国境の38度線近くや炭鉱がある地域、山間の僻地(へきち)に隔離している。少しでも政権に不満を表出しそうな人たちは、強制収容所に監禁します。

 北朝鮮の強制収容所を撮影した衛星写真から分析すると、推定で16万人から25万人が強制収容所にいるといわれています。

 敵対階層は彼ら北朝鮮指導部にとっては国民ではないというか、死んでも心が痛むわけではない。彼らの階級闘争論からすれば、敵対階層は淘汰(とうた)する対象であって国民ではない。

 ですから北朝鮮は人権といった概念からはほど遠い国であって、人命を尊いとは思わないのです。そうすると何が起こるか。

例えば、核戦争で金正恩が核兵器の発射ボタンを押すのではないかと私に質問する人もいるのですが-私は正直なところ想像もしたくないが-、社会主義の階級闘争論や敵対階層に対する哲学からすると、あり得るんですね。

 核兵器にまつわる中国でのこんなエピソードがあります。米国の高官が中国の最高指導者の●(=登におおざと)小平に会って米国の軍備状況を誇示したところ、●小平は平然とした態度で「中国は米国など全く怖くない。中国人を1日200万人殺してみなさい。1年間続けても6億人だ。つまり中国人の半分も殺せないのだから、全く怖くない」と言ったという話があります。

 また金正日は韓国に対する野心を捨てず、こんなことを言っています。「韓国に攻め込めば、韓国人のうち1千万人は逃げるだろう。逃げなかった者のうち、1千万人は粛正する。残りの2千万人と、北朝鮮の2千万人とで国家を建設する」。

 一般の国民に対する感覚はわれわれの感覚とはこれほど違うんですね。彼らの論理からすれば怖いものなし。彼らの強みでもあります。北朝鮮を人権問題で追及したとしても意味はないのだ、と認識したうえであの国とつきあわなければならないということです。 =(3)に続く

(李教授の発言は、8月23日、大阪市内で行われたウェーブ産経主催の講演会の時点)



 【プロフィル】李相哲(り・そうてつ) 中国黒竜江省生まれ。中国で新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院博士課程修了(新聞学博士)。主な著書に産経新聞に「秘録金正日」として連載した「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)、「朴槿恵の挑戦」(中央公論新社)。


【李相哲氏講演詳報(3)】2017.9.1
手段を選ばぬ北朝鮮…約束を破り核実験、逃げ癖、2代目の誕生神話も嘘

 日本上空を通過するミサイルの発射など、挑発を続ける北朝鮮。アジア近代史など専門の李相哲・龍谷大学教授が読み解く北朝鮮の本質「3つの要素」とは。



■日本が忘れやすい点…「国際情勢は、どれだけ自国の国益を考えて行動するかが全て」

 3番目の彼ら(北朝鮮)の特徴は、これも社会主義国の共通点ですが、目的達成のためには手段を選ばない。一言で言うとルールを守らない、約束を守らないのです。

 北朝鮮が歩んできた道、米国と交わした約束、韓国と交わした約束、それらの内容とその後を照らしてみると、約束はほとんど守られていないんですね。例えば1994年10月にジュネーブで米朝枠組み合意が交わされました。その内容は北朝鮮が核兵器開発を放棄し、代わりに米国が軽水炉を作ってあげるというもの。軽水炉が完成するまでは毎年50万トンの重油を提供するという約束でした。

 しかし後になって北朝鮮はウラニウム型の核兵器をずっと開発しているということがわかったんですね。ここで合意は破棄されましたが、その後も2005年9月19日、これは919合意と言いますが、(米日中露と北朝鮮、韓国の)6カ国で話し合い、北朝鮮が核兵器を放棄する、その代わり米国は「敵対行為」を止める。

 例えば米韓軍事演習の中止です。また将来的な平和協定などの含みを残していたんです。ところが、皆さんご存じの通り北朝鮮は翌年に第1回の核実験を行いました。

 北朝鮮は、敵が怖いとき、自分の力が尽きたとき、へとへとになったときには約束を交わします。そして時間をかせぎ、状況が好転するとまた挑発し、約束を破るのです。

 私は中国で育ったので、中国という社会主義国のやり方と北朝鮮のやり方を照らし合わせるといろんなことがわかるのです。毛沢東はかつて「持久戦を論じる」という論文を書いていまして、私は大学時代に読みました。その戦術と全く同じです。敵が怖いときは逃げる、敵が弱いところを捕らえて攻撃する、困ったときは話し合う、というものです。

 ですから、彼ら北朝鮮が話し合いに出てくるときは、もう困って困り果てて出るしかないという状況にある、と見た方がよい。

国際関係論や国際政治では、この国は良い国とか、この国は悪い国という考え方はない。国際情勢のなかで、自国の国益をどれだけ考えて行動するかが全てです。でも北朝鮮の問題というのは、国民の利益を優先するのではなく、政権を維持するためにどうすべきかということを最優先している点にあります。

 北朝鮮、この国の成り立ちは1945年9月、日本が終戦で撤退したあとソビエト連邦(当時、現ロシア)が北朝鮮に進軍したときに始まります。北朝鮮に続々と戻ってきた政治勢力の中には、延安で毛沢東たちと一緒に革命に参加した人たち、韓国国内で日本に反抗して活動していた民族主義者、ソ連から戻った社会主義派がいた。

 金日成(キム・イルソン、後の北朝鮮国家主席)は1940年くらいからソ連のハバロフスクの近郊にあるビャツッコエという遊撃隊訓練キャンプで大尉の階級にいたソ連兵です。当時33歳の若い金日成の周りに人材を集めなければならないので、個人崇拝を始めた。

 近年になってソ連の資料館から発掘された資料から、ソ連の進駐軍将軍たちが金日成をどうやって偉い英雄に仕立てたかという工作の過程がありありと描かれています。

 それは金日成がかわいいからではなくて、ソ連が北朝鮮という国(の国民)を思い通りに動かすためです。ソ連が操る金日成の言う通りに北朝鮮国民を動かすためには、金日成を偉大な将軍に仕立てなければならない。

 そこから、北朝鮮は、一人の英雄がいて、「この人の周囲に団結すれば全てうまくいくよ」というストーリーを作っていく。その次に後継者になる金正日(キム・ジョンイル)は1942年生まれですから抗日も何もしていないため、英雄譚(たん)がない。朝鮮戦争にすら参加していない。そこで何をしたかというと、神話を作るんですね。

例えば金正日が生まれたのは(本当は1941年)ソ連なんですが、北朝鮮は白頭山という、金日成が日本軍と戦った戦火の中で生まれた子供だと、しかも彼が生まれた場所に近い山の高さが216メートル、彼の誕生日の2月16日とぴったり一致する。山の麓にあった金正日が出生した丸太小屋と山の距離は42メートル、つまり生まれ年と一致したらしい。

 現在の金正恩(キム・ジョンウン)は、そういう神話がなかなか作りにくいようだ。彼の母親が在日朝鮮人だということは誰もが知っている。

 多くいる妻の中の一人で、彼女は踊り子だった。朝鮮のしきたりや文化からすれば、踊り子は昔、少し下にみられる風潮があったので、このことからも明らかにできない。そこで彼らが言い出したのは、金正恩は血筋がいいんだと、「白頭山血筋」を受け継いだのだとしました。こうして後継者にはなったが、金正恩にとっては「自分は偉い」とみせる必要がある。

 大胆で戦略家だというストーリーを作るため、大胆にも朝鮮戦争後初めて韓国の領土、延坪島(ヨンピョンド)に砲撃を加えた。北朝鮮の魚雷攻撃で46人の韓国人兵士が亡くなった哨戒艦・天安の事件(2010年3月)も金正恩の指示といわれている。これは北朝鮮国内では彼の英雄譚として残ってます。

 1回目の長距離弾道ミサイル発射を行ったときも、北朝鮮の宣伝では、偉大な将軍様がアメリカの陰謀を砕いたと書き立てた。かように彼は実績作りに一生懸命です。

(李教授の発言は、8月23日、大阪市内で行われたウェーブ産経主催の講演会の時点)



 【プロフィル】李相哲(り・そうてつ) 中国黒竜江省生まれ。中国で新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院博士課程修了(新聞学博士)。主な著書に産経新聞に「秘録金正日」として連載した「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)、「朴槿恵の挑戦」(中央公論新社)。


【李相哲氏講演詳報(4)】2017.9.4
北朝鮮問題、長期化の背景は…韓国を狙う核・ミサイル、開発資金は韓国から

 日本上空を通過するミサイルの発射など、度し難い挑発を北朝鮮はなぜ続けるのか-。アジア近代史などが専門の李相哲・龍谷大学教授は、北朝鮮の本質は「3つの要素」に分類できると指摘する。中国という社会主義国で生まれ育ったからこそ深く理解できる金ファミリー政権の「かたち」を8月23日に大阪市内で行われた講演会(主催・ウェーブ産経)から読み解く。(発言はすべて23日時点)


■金正恩政権…いずれ決着、この際に問題となるのが「韓国」

 しかし北朝鮮には変化が生じています。昔の北朝鮮は全てを国が与えていました。食べ物、洋服の生地など配給券を配っていた。小学生は鉛筆からかばんまで国が与える。新学期が始まる際は子供を集め「偉大な将軍様が皆さんに文具を与えるのです」というような儀式を行い、子供は皆、涙ぐんで受け取る。そうして忠誠心を植え付けていたのですが、これが最近できなくなった。

 1994年に金日成(キム・イルソン)が死去し、経済がどんどん悪化したことで、地方から配給が少しずつなくなっていった。今は一部の特権階級を除いてこの制度は崩壊してしまった。その代わりに生まれたのがチャンマダンという野外市場です。

 その市場で、お金も物もない人は何をするかというと、北朝鮮では上下水道が完備されていないので、川に行って水をくみ、市場で金持ちに売ってその日を延命する。チャンマダンがあるため国民はかろうじて飢え死にしていない。現在は衛星写真で確認した場所だけで、北朝鮮全土にだいたい700カ所くらいあります。

 経済学者の統計によると、北朝鮮は経済の8割方をチャンマダンに依存していると。そうすると、これまで金日成や金正日(キム・ジョンイル)のために、つまり一人のために頑張れば何でもあるし、国も問題ないんだと思っていた人たちが、「市場にいったらもっといいことがある」と思うようになり、お金が全てだと思うようになる。

 ただ金正恩(キム・ジョンウン)も若いですし、周辺に若いスタッフもいるので、やはり改革の試みは行っている。従来、工場などの生産物は全部国が買い取って分配していたが、金正恩政権では30%は国に納め、残りは自分たちで売りなさいと、そういうことをやっています。

 しかし金正恩政権のジレンマというのは、改革はしても開放はできないという点にある。

開放なしに北朝鮮は立て直せない。電気がまずない。上下水道もそうですし、生活の基盤施設がほぼ壊滅状態にある。資本や技術を韓国から取り入れなければならないが、それでは情報が入ってくる。金一族の一人のためにやってきた北朝鮮の政治体制が良くないとわかってしまう。

 最近特徴的なのは、金正恩の統治体制というのは国民が勝手に自給自足をしているため、上層部は集中してミサイルと核の開発に注力しているということだ。

■制裁が“金正恩のカネ”直撃、困ってる北朝鮮

 国際社会もそれがわかってきたため、金正恩に入るおカネに焦点を合わせて制裁を始めた。

 私は以前から中国を頻繁に訪ね、北朝鮮と貿易している業者たちとよく話をします。半年前までは、北朝鮮の貿易関係者たちは全く困らないんだと言っていると聞きました。北の貿易業者が中国の銀行で口座を作るのは非常に簡単で、数年前はパスポートを持っていけばどこの銀行でも口座を作れたんですね。

 ですから北朝鮮は稼いだカネは全部中国にプールして、その口座(のカネ)から中国で必要なものを買って北朝鮮に運ぶ。北朝鮮の銀行口座が制裁で取引できなくなっても問題はなかった。

 それが今年の6月から金融実名制となり、世界的に誰のお金でどれだけのお金があるか全部見られるようになった。北朝鮮はいま、お金を全く動かせなくなっています。

 3週間ほど前に同じ貿易関係者に話を聞くと、北朝鮮は本当に困っているといいます。「希望が見えない、どうすればいいんだ」と。これが政権内部でじわじわと広がっているわけです。

 私は国際社会の制裁を続けていけば、金正恩政権は間違いなくどんどん悪くなって、決着が付くと思います。

ただ、ここで問題になるのが韓国です。北朝鮮問題がここまで長引いている背景には韓国の問題があるのです。韓国が毅然(きぜん)とした態度で北朝鮮問題を解決する強い意志を持っていれば、とっくに解決していた。

 韓国の保守政権も左派政権も含めて、韓国の政権というのは、かつての朴正煕(パク・チョンヒ)大統領時代と違い、5年間の政権の安全を考えてきた。北朝鮮を韓国に編入させるいう方針で北朝鮮問題に取りかかるのではなく、分断したままの朝鮮半島を管理するという発想でやってきた。問題が起こらなければいい、ということです。

 1992年の金泳三(キム・ヨンサム)大統領のころからほぼ20年間、金大中(キム・デジュン)を通して、盧武鉉(ノ・ムヒョン)まで、韓国は北朝鮮をなだめるために、約8兆ウォン(約8千億円)を支援しています。北朝鮮が核兵器とミサイルを開発するには巨額の資金が必要だが、その資金は韓国から渡っているんですね。

 本当に皮肉な話ですが、韓国を狙っている核兵器とミサイルは、韓国が助けて作ったと言っても過言ではない。



 【プロフィル】李相哲(り・そうてつ) 中国黒竜江省生まれ。中国で新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院博士課程修了(新聞学博士)。主な著書に産経新聞に「秘録金正日」として連載した「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)、「朴槿恵の挑戦」(中央公論新社)。

2017.9.5 11:00
更新

【李相哲氏講演詳報(5)】
北朝鮮とあの国は「唇と歯」、米国が中国に問題解決を期待するのは間違いだ

 日本上空を通過するミサイルも発射、度し難い挑発を北朝鮮はなぜ続けるのか-。李相哲・龍谷大学教授が北朝鮮の本質を読み解く。

■北朝鮮の核兵器を認めるか、あるいは力ずくで…
 現在、これほど国際社会が北朝鮮を包囲して金正恩の態度を変えさせようと努力しているなかで、(韓国の)文在寅(ムン・ジェイン)大統領は8月21日、韓国を訪問した米国の上下院議員団に会って、(南北協力事業の)開城(ケソン)工業団地を再開するという意志を表明した。
 開城工業団地とは金大中(キム・デジュン)政権の2000年に着工して、60平方キロくらいある、北朝鮮領内に造った工業団地です。それが稼働し始めたのが2005年で、韓国から150社くらいの企業、加工業者が入って、毎年だいたい1億ドルくらいのお金が北朝鮮に渡っていたんですね。
 そのお金はもちろん金正恩(キム・ジョンウン)の統治に使われる。また金剛山問題もある。金剛山は北朝鮮側にある、朝鮮半島で最も美しいとされる観光地なんですが、当初は入山料だけで1人300ドルも払っていた。これは高いから半分は国(当時は金大中政権)が補助金を出していた。このお金も当然ながら金正恩の懐に入っていた。
 最近、話題になっているように、北朝鮮の1年間の貿易収入がだいたい30億ドルですね。今回の国連制裁で10億ドルは減るのではないかと計算しています。こうした数字を見れば、開城工業団地での1億ドルは、北朝鮮にとって大きな金額です。いまだに北朝鮮の国民総所得は300億ドルくらい。そんな国に(開城工業団地だけで)年1億ドルは渡っていた。
 そのお金で北朝鮮の一般国民の生活が向上したり、北朝鮮が少しでも開放的になったりすればいいことです。しかし一向に北朝鮮の一般国民の生活が改善したという話はきかないですね。それは北の政権が核兵器開発などに使ったからではないか。

加えて少しだけ。恐らく皆さん気になっていると思うんですが、北朝鮮問題が一向に解決しないのは韓国が毅然(きぜん)とした態度を見せなかったからだと申し上げましたが、根本的にはやはり中国が北朝鮮を支えているということがあります。
 中国の影響力がどれだけあるかというと、北朝鮮の人たちが使っているありとあらゆるものが中国から入っている。
 彼ら(中国)の言い方からすると、民生に関わる制裁は避けるべきだと言っています。最近ミサイルに使われているといわれるコンピューター部品についてもそうです。コンピューターは一般の人たちが使う物でもあるけれども彼らはそこから部品を解体して軍事産業に転用するわけですから、なかなか中国が本気にならないと北朝鮮は止められない。
 北朝鮮と中国の国境は1400キロくらいあり、そのなかに税関が6カ所くらいある。税関だけ止めても北朝鮮は大変な状況に追い込まれるんですが、中国はそれをしないんですね。

中国には「唇がなくなると歯が寒い」ということわざがあるんです。つまり中国にとって北朝鮮は唇のような大事な存在であって、この70年間、中国からすれば北朝鮮の100万を超える軍人(推定の総兵力は119万人)が良くも悪くも米軍の北上を阻止しているわけです。だから中国にとってはとてもありがたいことで、それを中国がなくすということはあり得ないわけです。
 なので、中国に期待してこの問題を解決しようとする米国の考えは間違っていると思います。
■「米トランプ政権の選択肢2つ…戦略3段階、今は…」
 そこでいまトランプ米大統領がどうしようとしているかを見ると、米国はテーブルの上にはさまざまなオプションがあり、そのなかには軍事的なものも含まれると言っていますが、私は2つしか残っていないとみているんですね。
 北朝鮮の核兵器を認めるか、あるいは力ずくでそれを奪うかということなんです。
 米国の今の戦略は3段階くらいあって、最初は世論を作り制裁を強めるというものですが、中国が積極的に参加しないと効果がないということがわかったので、中国を巻き込み、中国がさらに圧力をかければ変化があるんじゃないかと、そこまでやってみたが駄目だった。そこでいまやっているのはセカンダリー・ボイコット。つまり中国に強制的に(制裁を)させる手段として、万全の軍事的準備を進め、中国に圧力をかけているのが現状なんですね。

私が聞いた韓国の高官の話では、いま釜山港にこの半年間、毎日のように米国からすごい量の軍事物資が入ってきている。最近話題になっている米国の現場指揮官の3人、太平洋司令官と戦略軍司令官、防衛システムを管轄する局長の3人が韓国に来た。
 そのなかでも私が注目しているのは、戦略軍のトップが韓国に来て演習に参加したということです。これが何を意味するかというと、戦略軍とは簡単に言うと核兵器を扱う部隊です。爆撃機や原子力潜水艦など核兵器を使う部隊の司令官です。この人が来たというのは、恐らく金正恩(キム・ジョンウン)に対し「妙なことはするな」と(いうメッセージ)。
 北朝鮮は言葉でいつでも核で何かやりそうなことをチラつかせるんですね。それに対する警告があります。さらに、こういうことは万分の一の確率もないかもしれませんが、核兵器を使わざるを得ない場合のシミュレーションをしてるのではないかと思っています。

そのような状況下でいま、危機は高まっているんですが、全ては金正恩が10日間の演習と、そのあとどれくらい静かにしてくれるか、つまり残念ながら金正恩が朝鮮半島のキーを握っている。そこに文在寅政権が金正恩を応援するかのようなことをしているので、金正恩は安心しきっていろんなことをやっているという状況です。 =完
(李教授の発言は、8月23日、大阪市内で行われたウェーブ産経主催の講演会の時点)
▼再び(1)韓国ソウル五輪に対抗し“借金”、ミサイルやっぱり発射…から読む

 【プロフィル】李相哲(り・そうてつ) 中国黒竜江省生まれ。中国で新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院博士課程修了(新聞学博士)。主な著書に産経新聞に「秘録金正日」として連載した「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)、「朴槿恵の挑戦」(中央公論新社)。
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