「永遠のゼロ」⑤ メディアの罪

「永遠のゼロ」
第9章 カミカゼアタック 423ページ

「空母は恐ろしい殺戮兵器だった。我々が攻撃したのは、そんな最強の殺戮兵器だ。
しかも、特攻隊員たちは性能の劣る航空機に重い爆弾をくくりつけ、少ない護衛戦闘機しかつけて貰えずに出撃したのだ。何倍もの敵戦闘機に攻撃され、それをくぐり抜けた後は凄まじい対空砲火を浴びたのだ。無防備の貿易センタービルに突っ込んだ奴らとは断じて同じではない!」
 「しかし、信念のために命を捨てるという一点において、共通項は認められーーー」
 「黙れ!」
武田は言葉を封じた。
 「夜郎自大とはこのことだ---。貴様は正義の味方のつもりか。私はあの戦争を引き起こしたのは、新聞社だと思っている。日露戦争が終わって、ポーツマス講和会議が聞かれたが、講和条件をめぐって、多くの新聞社が怒りを表明した。こんな条件が呑めるかと、紙面を使って論陣を張った。国民の多くは新聞社に煽られ、全国各地で反政府暴動が起こった。日比谷公会堂が焼き討ちされ、講和条約を結んだ小村寿太郎も国民的な非難を浴びた。反戦を主張したのは徳富蘇峰の国民新聞くらいだった。その国民新聞もまた焼き討ちされた」高山は「それは」と言いかけたが、武田はかまわず言った。
 「私はこの一連の事件こそ日本の分水嶺だと思っている。この事件以降、国民の多くは戦争賛美へと進んでいった。そして起こったのが五・一五事件だ。侵略路線を収縮し、軍縮に向かいつつある時の政府首脳を、軍部の青年将校たちが殺したのだ。話せばわかる、という首相を問答無用と撃ち殺したのだ。これが軍事クーデターでなくて何だ。ところが多くの新聞社は彼らを英雄と称え、彼らの減刑を主張した。新聞社に煽られて、減刑嘆願運動は国民運動となり、裁判所に七万を超える嘆願書が寄せられた。その世論に引きずられるように、首謀者たちには非常に軽い刑が下された。この異常な減刑が後の二・二六事件を引き起こしたと言われている。現代においてもまだ二・二六事件の首謀者たちは『心情において美しく、国を思う心に篤い憂国の士』と捉えられている向きがある。いかに当時の世論の影響が強かったかだ。これ以後、軍部の突出に刈向かえる片はい心くなった。政治家もジャーナリストもすべてがだ。この後、日本は軍国主義一色となり、これはいけないと気づいた時には、もう何もかもが遅かったのだ。しかし軍部をこのような化け物にしたのは、新聞社であり、それに煽られた国民だったのだ」
 「たしかに戦前においてはジャーナリストの失敗もあります。しかし戦後はそうではありません。狂った愛国心は是正されました」
 高山は胸を張って言った。
 武田の妻が再び夫の腕をそっと押さえた。武田は妻の方を見て小さく頷いた。それからまるで呟くように言った。
 「戦後多くの新聞が、国民に愛国心を捨てさせるような論陣を張った。まるで国を愛することは罪であるかのように。一見、戦前と逆のことを行っているように見えるが、自らを正義と信じ、愚かな国民に教えてやろうという姿勢は、まったく同じだ。
その結果はどうだ。今日、この国ほど、自らの国を軽蔑し、近隣諸国におもねる売国奴的な政治家や文化人を生み出した国はない」
 そして高山に向かってはっきりした声で言った。
 「君の政治思想は問わない。しかし、下らぬイデオロギーの視点から特攻隊を論じることはやめてもらおう。死を決意し、我が身なき後の家族と国を思い、残る者の心を思いやって書いた特攻隊員たちの遺書の行間も読みとれない男をジャーナリストとは呼べない」


スポンサーサイト

 | HOME | 

プロフィール

野生馬 太郎

Author:野生馬 太郎
欧米列強と必死に戦ってきた爺ちゃんたちの名誉のために!

アジアの歴史と各民族性の相違を理解するために!


最新記事


カテゴリ

戦争裁判 (13)
満州開拓団 (2)
戦後処理 (4)
朝鮮半島引揚げの惨事 (4)
終戦直後の混乱 (9)
北朝鮮への帰還運動 (2)
シベリア抑留 (4)
慰安婦 (16)
その他 (7)
未分類 (0)
サハリン(樺太)韓国・朝鮮人残留 (3)
終戦時の朝鮮半島 (1)
韓国軍 (4)
日本人捕虜虐殺 (1)
空襲被害 (6)
海外からの引揚 (9)
日本占領 (1)
ソ連軍の暴虐 (3)
慰霊 (1)
戦場の実相 (8)
在日 (5)
韓国の売春事情 (9)
アメリカ (2)
メディア論 (1)
高級幹部 (2)
負け犬の心理 (2)
中国の不条理 (2)
歴史認識 (10)
北朝鮮 (2)
台湾 (1)
北海道が危ない (5)
満洲 (15)
韓国・北朝鮮の国民性 (2)
国家 (1)
朝鮮人強制連行 (1)
国家の軸 (1)

月別アーカイブ


最新コメント


最新トラックバック


検索フォーム


RSSリンクの表示


リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる


QRコード

QRコード